「先生もひどいよね。こんな細っこい優馬に、こんな重いもの持たせるなんて。自分で持ってくればいいのに
平價酒店 」
「……別にいいよ。こんなのちっとも重くなんかないし」
菜々美の横をすり抜け、中央の実験机にテキストの山をどさりとおいてから優馬は、わざとそっけない口調で返した。
リップクリームを塗っているのか、すぐ横で菜々美の唇がつややかに光る。
微かに漂う甘いイチゴの匂いは、きっとその唇から来るのだろう。優馬はめまいを覚えた。
「菜々美はなんでこんなに早く来てるんだ? 西山とか田村とか、一緒じゃないの?」
「そ。一緒じゃないの。たまには優馬とゆっくり話がしたくてさ。先生が優馬の事探してたし、準備係だから早く来るなって思って、ここで待ってた」
「何で話なんか。……なにかあった?」
胸の中が再びざわざわと騒ぎ出す。
こんな至近距離で、今までは菜々美のどこを見ながらしゃべっていただろうか。
まっすぐ目が見れない。
少し目線を下げてみるが、薄い開襟シャツの胸元に目がいかないように注意しながら菜々美を見る事は、とてつもなく難しかった。
「ねえ、優馬って、記憶が一部分だけ消えてしまったりすること、今もある?」
けれど不思議なことにその一言ですべてのザワつきが消えた。
体中の細胞がしんと冷えていく。 息を潜め、優馬はその質問を反芻した。
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