あれよあれよと民主化の進むミャンマーの選挙に、昔に読んだ芸談が思い浮かぶ。「客席に背中を向けるときは、ベロを出していても、客を泣かせなけりゃいけない」と六代目の菊五郎は言ったそうだ。
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片や吉右衛門は「私は舞台で泣くときは、ほんとうに涙をこぼす。役者から先に泣かなけりゃ、お客様を泣かすことはできない」(『芸の世界百章』宇野信夫)。善(よ)し悪(あ)しという話ではなく、往年の名優の芸風がしのばれて面白い。
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さて、ミャンマーの民主化である。悪名高い軍事独裁が長く続いた国の豹変ぶりに誰もが驚く。国際社会という観客に民主化を演じつつ、裏で舌を出しているのではないか。疑念がすっきりとは消えない。
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アウンサンスーチーさん率いる野党の「勝利」が伝わってくる。だが、これとて「公正で自由な選挙をアピールする狙い」との見方がある。補欠選挙だから圧勝されても与党の優位は揺るがない、と。見る目が意地悪に過ぎようか。
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スーチーさんは初めて国政に参加する。一歩前進で、民主化への弾みもつこう。とはいえ、強制と恐怖で支配してきた軍政による憲法は残る。「投票用紙(バレット)は弾丸(ブレット)より強し」という民主主義の理念を真に実現していくには、いらざる遺物だろう。 「私たちはふつうの暮らしをしたいだけなのです。他人の邪魔をせず、不安も恐れもなしに」。スーチーさんは以前、民主化を求める人々の気持ちをこう代弁していた。兆した春を冬に戻してはなるまい。日本も力を貸したい。
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